「賃貸マンションを事務所にできる?」
「事務所利用する際の注意点は?」
フリーランスや自営業の、いわゆるSOHO系の人で在宅勤務している人は多いです。
しかし、普通の賃貸物件は事務所利用が出来ないケースが多いです。契約形態が異なるので、トラブルに発展しやすいです。
そこで当記事では、賃貸のマンションを事務所利用する際の注意点をまとめました。事務所利用が可能な物件を借りる方法もあるので、参考にしてください。
「家AGENT」池袋店の店長で、賃貸業界歴10年以上です。管理職になる前の年間接客件数は380~400件と経験豊富です。お部屋探しに関して、設備や費用などの悩みも的確にアドバイスしています。
自宅兼事務所にするときの注意点
自宅で仕事をしている方からすれば「仕事場も兼ねている自宅を事務所利用して何が問題なのか?」と思うかもしれませんが、貴方にあまり問題がなくても、物件を事務所利用される管理会社や大家に迷惑がかかります。
その結果、最悪の場合「契約違反で退去」という話も出てくることがあるので、まずは何が問題なのか知っていきましょう。
居住用物件と事務所可物件
居住用物件と事務所用物件では課税の多さや有無が異なります。まず固定資産税に関して、同じ物件でも居住用と事務所用だと税率が大きく異なります。
具体的には居住用と事務所用では『敷地面積』の考え方が違い、例えば廊下などの共有スペースは居住用物件では敷地面積に含まれませんが、事務所利用では敷地面積に含まれます。
固定資産税は敷地面積の広さ等に起因するので、事務所利用の方が固定資産税は高くなります。
また、消費税に関しても課税の有無が異なります。居住用物件での家賃収入は非課税なのに対して、事務所用物件の家賃収入には消費税が加算されます。つまり課税対象です。
このように事務所利用に伴い、固定資産税が上がれば当然管理会社や大家の負担は大きくなり、また同じ賃料でも、これまで非課税だったものが課税の対象になってしまうのです。
だから自宅マンションでも勝手に事務所利用してはいけないのです。
【 注意!! 】
勝手に事務所利用を開始してしまう方の中には「別に自宅を事務所利用していてもバレなきゃいい」と思っていることが多いようですが、郵便物や来客、表札、ホームページ、電話帳などから賃借人が事業を行っているか割りだすことができます。
事前の告知なしの契約形態変更は確実に契約違反に問われますから、事業どころじゃなくなる可能性が大いにあります。
よって、仮に居住用物件を事務所利用しようとするなら、管理会社や大家の了承を得て、増税分を家賃の割増払いなどで折り合いをつける必要があります。
ただし、問題は固定資産税や消費税だけに留まりません。例えば今貴方が住んでいるマンションの用途が「居住用」の登記である場合、事務所利用をされると「事務所用」として登記し直さなければなりません。
登記の変更には手数料などの諸費用がかかるので、それも勝手に事務所利用してはいけない要因になっています。
※居住用の登記であるにも関わらず中には事務所利用の住人を黙認しているマンションの管理会社や大家もいます。しかし、その行為は脱税に当たるので、なんらかの形で発覚したときに面倒なことになります。
つまり、その場合の管理会社や大家はリスク覚悟で黙認しているということになります。
契約形態の問題
先ほど少し触れましたが、マンションを借りるときは「居住契約」か「事務所契約」を結んで入居しています。
まず、居住用登記物件に「居住契約」で住んでいる場合、ほぼ100%事務所利用は認められません。勝手に事務所利用し始めた場合、間違いなく契約違反に当たります。
一方、事務所登記物件に「事務所契約」で住んでいる場合は何も問題はありませんが、「居住契約」で住んでいて「事務所利用」をはじめた場合は留意すべきことがあります。
事務所登記してある事務所可物件に住んでいて契約形態を「居住契約→事務所契約」に変更した場合、実は課税の対象にはならないのですが、それ以外で問題があります。
(参照:国税庁 質疑応答事例 消費税目次一覧 (非課税(住宅の貸付)) 3.用途変更の取扱)
問題となるケースは『開業した事業に不特定多数の来客がある場合』になります。数の明確な決まりはありませんが、例えばネイルサロン・エステサロン・プライベートジム・スナック・バーなどは断られるケースが多いです。
これは防犯の観点や居住用として賃借している住人への配慮で、不特定多数の人が来訪するような事業の場合、一定のリスクや住民とのトラブルが予測されますから、それを踏まえた上で事務処理用や事業の開始を拒否されます。
よって、事務所利用可能な物件で事業を立ち上げたければ「人の出入りがあまりない業種(例えば、税理士・行政書士・デザイナー・ライターなど)」で、かつ「看板や表札を掲げない」などの条件つきで、管理会社や大家が許可すれば事業所して利用することができます。
税金の問題
「居住用で登記してある物件」と「事務所用で登記してある物件」では固定資産税が変わります。また、賃借人が居住用契約の場合に得られる賃料は非課税で、事務所用契約の賃料には課税がされます。
仮に貴方が居住用物件で事務所利用をしたい場合、管理人の対応は、以下の3パターンに分かれます。
管理会社や大家がマンション管理規約の違反を黙認して見逃す |
きちんと居住用から事務所利用に登記し直して課税分を賃借人に負担させる |
変更申請を嫌って拒否するか |
本来取るべきパターンとしては2.の「登記をし直して課税分を賃借人に負わせる」か、3.の「拒否する」ですが、登記変更にはかなりの費用や手間がかかるため管理会社も大家も積極的に変更しようとはしません。
ですから、マンション管理規約に違反承知で黙認するか、拒否するパターンが多いのですが、これは貸借主である管理会社や大家の一存に委ねられます。
いずれにせよ、貴方に税金上の問題は特にありませんが、管理会社や大家のせいで結局課税分を支払わされることになり兼ねないので、できれば端から「事業用物件」に「事業契約」で居住するのが一番好ましい形といえます。
管理組合との問題
マンションでは管理組合という住民組織が居住規約を定めているケースがあります。
その居住規約で事務所利用や店舗としての利用を禁止している場合があり、たとえ管理会社の方からOKをもらっていても、住人による管理組合の規約によって事務所利用を拒否されていればNGということがあります。
対応策としては、先に説明したように「居住用」ではなく「事務所用」のマンションにするか、管理組合と折り合いをつけるかの2択です。
管理組合と折り合いをつける場合は、「不特定多数の来客がない業種であること」「看板を表示しない」「住人に迷惑をかけない」「特定の顧客以外をマンションに入れない」などの条件をつけて交渉する必要があります。
管理組合による可否の判断は管理会社や大家と同じく彼らの一存で決定されますが、それでも管理規約を覆せるケースは稀だということを覚えておきましょう。
例えば、行政書士の方でマンションを事務所利用する際に管理組合と交渉して容認されたときは、「特定の顧客以外の出入りを一切禁止して」「表札や看板を掲げない」ことを条件に許容されたケースがあります。
ちなみに、勝手に契約形態を変更したときのように、管理規約を破っても違反に問われます。
契約違反や規約違反は退去させられるという話もあるようですが、実際はいきなり退去させられるというよりも注意・勧告が先にあってそれでも応じない場合は最悪 強制退去を命じる法的手続きをするようです。
だからといって規約を破っていいわけではありません。
管理組合も住人がより良い生活を営むために努力していますから、そこに一定の理解を示し自分の都合だけでなく、住民に迷惑がかからないように最大限努力することや、事務所利用をしていることが周囲に判らないようにするなどの妥協を示す必要があります。
新たにマンションを賃貸して事務所利用する場合
先ほどから何度か述べていますが、新たにマンションを賃貸してそこで事業を始めたい場合は、必ず「事務所用物件」を「事務所契約」するようにしましょう。
とはいえ、居住用のマンションを兼ねている場合は業種によっては断られるケースもあるので、理想論で言えばきちんと事業用ビルにオフィスを借りることが望ましいでしょう。
もちろん初期費用や内装工事費を節約するためにマンションを賃貸して事業を始めたい気持ちはわかりますが、すべての決定権は管理会社や大家にあります。
例え事業用登記の物件でも居住契約の住人がいる場合は100%事業用として借りることができないかもしれないので注意が必要です。
また、「居住契約」と偽って「事業所利用」を開始するようなことは絶対にやめましょう。とくに分譲タイプのマンションの場合は、管理会社との間の契約違反に問われるだけでなく管理組合の管理規約にも違反することになり兼ねません。
それが原因で退去させられて事業が立ち行かなくなっては元も子もありません。
マンションを事務所利用したいなら
マンションを事務所利用したい場合、どのようなことに留意すればいいかお分かりいただけたでしょうか?
要点をまとめておくと、
居住している・していないに係らず、事業開始前は必ず管理会社や大家に確認する |
家賃の割増払いなどで折り合いをつける方法が好ましい |
管理組合がいる場合は、そちらとも折り合いをつける |
いっそのこと「居住用物件」ではなく「事務所可物件」に移住する |
という所を覚えておいて欲しいと思います。
再三お伝えしていますが、賃借・購入済に係らず勝手に自宅マンションを事務所として利用するのは契約違反に当たりますから止めましょう。面倒でも一度確認を取っておくことが必要です。